緑風
 
極めて個人的な企画とかをやっちゃうブログ。
 

簡単ファイル共有の時計付きファイルマネージャ―


静かな街の。静かな話

6時のチャイムがなる。
早朝と夕方の二回のチャイムだ。
赤い屋根屋根が群生して並ぶ平面の中に立つのは、大きな塔。
巨大な塔には光を放つ燈台だ。
実はチャイムの元でもあったりするのだ。
これからは暗闇の時間帯。
ゆっくり、しかしそれよりも早く、夕暮れは訪れた。
「闇が降る。」
隣で声がした。
うん、闇が降る――ね。
言葉にしないで言った。
言葉は要らない。そう、言葉は要らなかった。
つい、この前までは。
「そうだね。」
一言、ぎこちなく言うと、しばらく黙り込む。
わずか10分ほどだろうか。
暗闇が訪れる。
ここはどこかオカシイ。
私の産まれた街では昼夜がころりと変わることなどなかった。
でも、私は、この街が好きだ。
「――寒くなってきた。中に入ろう。」
「・・・。」
無言で講義の声を表わすと、やれやれ。と声がする。
「あ、一番星。」
思わず声が出た。
この前まで、声なんて要らなかったのに。

――ずっと、これまでは。

静かな街の。静かな話。

レンガ造りの家が並ぶ。
赤い赤い屋根は古くから変わってないらしい。
全ての家が同じように見えるが、全てが個性的だ。
道に出っ張った家、三角形の家、玄関が地下にある家。
薄い霧だった道を歩きながらそれらの家を観察するのが私の日課だ。
あぁ、パン屋のトムさん家、建て替えたんだったっけ?
そんなことを考えていると、隣から声がした。
「ところで。あのさ、えぇと。」
何?と視線で疑問を投げかけると、彼が答える。
「あの・・・えぇと。うぅんと・・・。」
「だから何?」
そう言葉に出して言うと、彼はうーん。と唸る。
視線を逸らし、合わせようとしない。
「手・・・。つ、繋がないか?」
彼は真っ赤になっていた。
手?繋いで何があるんだろう。
右手を差し出して彼の右手を取る。
「あ、いや、そうじゃなくって・・・。」
そう言って手を離して彼は左の手を出した。
そして、向かい合っていた状態から隣に並ぶ。
「あれ?・・・案外あっさりと・・・。」
隣で疑問の言葉が聞こえたが、どういうことだろう。
隣を見ると、彼は複雑な顔つきをしていた。
手を繋ぐとそういう顔になるんだろうか。
――そういうことにしておこう。
私は足元を見る。
昨日降った雨が、水溜りを作っている。
映すしているのは暗いくらい影が、墨のような黒。
わざとピシャリと音を立てて水溜りを踏むと、隣から講義の声が来た。
「酷い。」
避ければ良かったのに。
あぁ、そういえば手を繋いでるんだった。
少しだけ硬い手の感触を感じる。
男の人だからとかではなく、機械をいじっているから。
視線を隣に移すと、彼は呟いた。
「僕たち・・・恋人、だよね。」
「そうなの?」
訊くと、彼は困った顔をした。
「えっと・・・。うん。たぶん・・・。」
「ふぅん。」
彼はアハハと苦笑して、うなだれる。
なんでかな・・・なんでだろう。
と。
「それじゃ、また明日。」
口に出して言う。その声に、彼はえ?と驚く。
「家、着いたから。」
「あ、そ、か。」
彼の左手から右手を離す。
私は玄関の扉を開く。
そして、振り返る。
「また明日。」
「うん。また明日。」
私はそれ以上は何も語らず扉を閉じる。
帰ってきた。私のセカイに。
静寂の支配する、無言のセカイに。
XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX サイレント XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
 音を立てずに私は走る。
否、このセカイに元より音なんてなかった。
風下の方から叫び声がする。
――幻聴だ。
音の無い、ココは。孤独だ。
獣の形をしたその動物・・・動く物は、狼のような、虎のような、形容しにくい形をしている。
回る回る刃は風邪を裂く。
本来ならある音は――無い。
その車輪は私の手、握るグリップのすぐ下に位置する。
トンファーのような形状、ただ、先端の「刃の付いた車輪」がスイッチと同時に回転する構造。
その形状から私は「リッパー」と呼んでいる。
音も無く、獣は走る。
臭いで気づかれた。――らしい。
実際は視覚かもしれなかったが、関係無い。
私は――斬り裂く。
理由は単純。探し物のために。
「□□■■□□■■□――――――!!」
音も無く、ケダモノが叫ぶ。
――だから、何?
獣は右腕を右下から左上にかけて猛烈な殴りを繰り出す。
右に跳んで、しゃがみ、避ける。
獣の方は空振って大きく右脇に隙ができている。
しゃがんだバネを利用して左――相手の右側にステップ。
左腕のリッパーで右脇から切断。
右腕が宙に跳んだ。
獣の左腕が来る。脇を絞めた牽制のジャブ。
遅い。
右腕のリッパーで防御。
衝撃は重い。が、耐え切れないほどではない。
振り上げた左腕を降ろし、腹に直撃させる。
車輪が腹部をえぐってハラワタを撒き散らす。
次の瞬間、獣はバックステップ。
憎しみを顔に表わし、背を向けて逃げ出した。
私は追わない。
あれは。もう死ぬ。
私は静かに身を翻し、裾についた血を落とす。
厚手の手袋ではらうと、さらさらと白いコートから血が零れる。
私は、彼のセカイへと出かけていった。
赤い屋根が印象的な。あの街へ。



6月1日(木)21:58 | コメント(0) | 小説 | 管理

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