| 龍とボクと。 第三章 7、8 |
|
| 7 「リア殿?」 突如現れた思わぬ援護にフェイシアが驚く。 「・・・どいてください。私が殺ります。」 その無表情な声にフェイシアが震える。表には出さなかったが、彼女は恐怖をも抱いた。 「しかし・・・!」 それを押し殺してフェイシアが講義しようとすると、リアがちらりと見る。 フードから覗かせている瞳は普段のリアのそれとは違った。 大きな瞳は半分よりも細く、するどくなっていた。 「・・・・・・・・・分かりました。」 フェイシアは黙り、後ろへと下がる。 恐怖からではなく、その瞳の決意の固さから。 『小娘が。何匹集ろうが、所詮蚊トンボよ。凍てつけ!』 怪物が槍を構える。 リアはナイフを固く握り締める。 次の瞬間、爆ぜるようにリアが走り出した。怪物は当然のように大槍を横薙ぎに薙ぐ。リアが跳び、後ろに降り立つ。怪物が異常な角度に腰を捻り、左腕で殴りつける。それをしゃがんで避け、その左腕を斬りつける。 『ガッ!?』 怪物の左腕がするりと斬れる。豆腐を斬るように容易に。鮮やかに。 『き、貴様、何をした?』 くぐもった声で怪物はリアに問う。信じられない。というように。 彼女のナイフには血のりが一滴もついていなかった。 それは対魔の武器で「デモン・スレイヤー」といった。異形のモノを存在ごと斬り、消滅させる武器。人や通常の魔物にはただのナイフだが、悪魔や黒魔法の産物を斬るときのみ、その力を発揮する。物質を斬っているわけではないので全く血は付着しない。 「次は、切断します。」 リアは無表情な声で問いに応えることなく応えた。 怪物はギリと歯を鳴らす。自分の問いに応えることも無く、淡々と話す少女に明らかな怒りをぶつけていた。しかし、リアは全く気にせず走り出す。自然に。 『凍えろ!アブソリュート・フリーズ!』 槍を地面に突き刺し、最短の詠唱で凍結の魔法を発動させた。 地面から無数の氷柱が突き出し、疾走するリアに向かう。が、リアはその場にあった井戸を蹴り、急激に角度を変えて跳んだ。 次の瞬間、氷柱が井戸に到達し、井戸を中心に大きな球体に氷の塊ができた。 それを視界に収めるながらリアは怪物に向かって走る。 怪物は左手を庇い、槍を振り回すが、スライディングで横振りを避け、後ろに回りこむ。 氷柱を蹴って、そのまま怪物の上腕を斬りつけた。 ぼとりと音を立てて上腕から下が地面に落ちる。と、同時に怪物は槍の柄で懇親の突きを叩き込んだ。――元から左手を犠牲にするつもりだったのだろう。 空中にいたリアは姿勢を制御できず、そのまま吹っ飛ぶ。木で作られた屋根に激突し、屋根を突き破って家の中に落ちた。恐らく、起き上がれないだろう。 「リア殿!」 フェイシアが家に向かって駆ける。が、怪物はそれを見逃さなかった。 『吹雪け、白銀の風よ!フリージング・ストーム!』 フェイシアの周囲に法陣が形成される。その魔法は無数の氷で切り裂く攻撃だった。 「!?」 その魔法が発動するはずだった。 『何だと!?』 が、しかし、急速に方陣は輝きを失うと、逆に真っ赤に変色する。 「これは・・・いったい・・・。」 フェイシアが立ち止まると何も無い宙に突然、ヒトガタが現れる。一瞬燃え上がり、完璧に人の形になる。そこには炎の戦乙女。 『その剣は槍と対になるもの。力を抑えることが出来ます。お使いなさい。』 フェイシアの疑問にナツメグは応えると、静かに宙で見守る。神の使いは人同士の争いに手出しできないのだ。 フェイシアが剣を引き抜く。その名は爆炎焦蛍。その炎は一瞬にして氷を溶かす。 怪物が槍を構える。その名は水淵晶蛍。その氷は一瞬にして炎を凍てつかす。 『ふん。戦乙女程度の加護が何だと言うのだ!この地を神は見捨てたのだ!』 「神は何もしてくれない、自らを改善しようと思わなければ何も良くは成らない。」 一歩。フェイシアが間合いを詰める。 『知った風な口を利くな、小娘!』 「自ら何もしようとしないあなたは、救われない。」 また一歩、間合いを詰める。 『潰れろ、小娘!!』 大きく怪物が槍を振りかぶる。 と、同時にフェイシアは走りだしていた。真っ直ぐ、怪物にめがけて。 『馬鹿め!』 そのまま怪物は槍を振りかざす。それをフェイシアは剣で受け止めた。 両者の刃に亀裂が走る。 怪物の怪力で勝っているように見えたが、両者は同時に折れた。 『何ぃ!?』 「これで、終わりだぁ!」 フェイシアは腰に挿していた剣を引き抜き、困惑する怪物の心臓へ突き立てた。 『ガッ、グガアァアァアアアァァアアァァァアァァ!』 長い断末魔を上げて怪物は昇天した。 8 ぼくは走り出した。 怪物が断末魔を上げた後、事切れる瞬間、詠唱を開始した。 短く、強力な呪詛だった。 その呪いはフェイシアには向けられなかった。 すでに自分の呪文が効かないことがわかっていたから。そう、事切れるまで知性を失っていなかった。 その標的はぼくでも、ヒューリィでもなかった。 ・・・・・・リアだった。 姿は見えなかったが、木造の家の中が青白い光が鈍く浮かび上がっていた。 走ているぼくにフェイシアが追い付く。 さっきまで腕と足が凍り付いていたので、随分動きがのろいのだろう。 「フェイシアはヒューリィを・・・!!」 そう叫ぶと、フェイシアは何も言わずに反対側に走っていった。 畜生・・・! 怪物の術が解け、氷が溶けて土が泥になっている。走り難い。 さっきの氷のせいで間接が動き難い。 もどかしくて、自分が不甲斐なくて頭にくる。 「リア・・・!!」 ぼくは家の扉を開け放つと叫ぶ。 どこだ・・・?どこにいる? 二つ目の扉を開けたところにリアは倒れていた。 反射で受身をとったのか、外傷は全く見当たらない。 が、しかし。 その代わり、息苦しそうにしきりに唸っている。 軽い鎧を外し、襟元を開けてやる・・・と。 氷が這っていた。 ――これが、呪い・・・ どうしようもなく、立ち尽くした。
| |
|
12月21日(水)23:19 | コメント(0) | 小説 | 管理
|